<湖南省・長沙>
辛い中華料理というと、日本人は、四川料理を思い浮かべるだろう。
しかし、湖南の人に言わせれば、その四川の人が驚く辛さ、それが湖南料理だという。実際に食べ比べてみると、四川は山椒を加えた痺れる辛さ、湖南は唐辛子だけの燃えるような辛さ、そんな違いはあるのだが。まあ、それにしてもいろいろな形のお国自慢があるものだ。
確かに、長沙の街の市場は唐辛子の赤と唐辛子の匂いでむせかえっている。鮮やかな赤。青味を帯びた赤。橙のような赤。数えると二十種類を越える。それぞれの赤が白い布の袋に盛られ店先いっぱいに並べられている。不思議な色感だ。美しい。美しいが見ているだけで舌がヒリヒリしてくる。唐辛子にはこんなに多くの種類があったのか?
「湖南人の舌は辛さには敏感です。人により家庭により好みの辛味違います」。
食堂でも屋台でも、料理人は強い火力で中華鍋をパンパンに熱し、そこに投げ込むようにして唐辛子を入れる。表面が真っ赤になっている料理もある。お客はそれを平気な顔をして食べ、大声で喧嘩でもしているかのように話をしている。熱気が湯気と一緒に立ち昇る。赤い熱気。市場で唐辛子に並んでスッポンやヘビが売られていたことが思い出された。活気、気の荒さ、そう言ったものが街全体を覆っている、そんな感じだ。唐辛子を食べるから気性が激しくなるのか、気性が激しいから唐辛子を食べずにいられないのか。
そう言えば、湖南省は現代中国の多くの革命家を輩出した地としても知られる。毛沢東、劉少奇、彭徳懐。近くは胡耀邦。火を噴くような辛い料理と革命家の輩出。何か関係があるだろうか? 唐辛子の赤と赤旗の赤。関係があるだろうか?
ともかくも、長沙は唐辛子と熱気の街だ。
(中日新聞・東京新聞の2002年10月27日日曜版に掲載)