どうだろう? うまく伝えることができただろうか? 地平線まで、見渡す限り、緑の草のうち続く内モンゴルの大草原を。その草の原を、果ての果てまで、一斉に揺らしながら吹き抜ける風を。草原に昇る朝日の鮮烈さを、真っ赤に染まる夕焼けの空の壮大さを。草を食む羊の群れの息づかいを、蒙古馬の群れの疾風怒濤の走りを。
 そして、そこに生きる遊牧の民の、地平線の彼方を見やる澄んだ、そして、孤独なまなざしを。

「風のように生き、風のように死ぬ」。
 シリンホトの草原から日本に帰り日が経つにつれ、鼻腔に残っていた草の匂いも胸腔に貯めてきた草の息も、次第に、消えていった。
 ただ、なぜか今でも、この言葉だけが頭のなかを駆け巡っている。

                       (「あとがき」より)


朗読:坂東弘美/馬頭琴演奏:薩日娜


「草原に酔う」の目次

(1)草原に酔う
(2)地平線て何だろう?
(3)草原という遠近法
(4)羊飼いになりたいと思いはじめたのはいつの頃からか?
(5)「何頭の羊を食べました?」
(6)草原の朝
(7)夏の夕暮れ
(8)羊たちは忙しい?
(9)馬がいて人がいて……
(10)井戸という思想
(11)草原に流れる時間
(12)風のように生き、風のように死ぬ
(13)別れの宴と馬頭琴




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